2014年2月13日木曜日

EAR 912 #4.1

前回 アナログレコードの試聴記も纏めて書いてあったのだけれど、再度見直して書くことにした。勿論良い音はしているのだけれども、CDの音から期待するアナログの音が出ていなかったので気になる点も含めて調べてみる事にした。諸所が重なりアップが遅くなりました。

イコライザー回路 概要
回路構成は

 MC step up trans 真空管二段 + カソードフォロワー + output trans

カタログでは、イコライザー素子はコンデンサーのないHand Made Inductorとあり、回路はNF式と書かれている。ここでも入出力共にトランスによるカップリングとしている。

それにしても、不思議な回路構成ではないだろうか。回路構成は全く同じとされているEAR 868/EAR 88PBには、このカソードフォローワーと出力トランスの搭載は無く直接ラインアンプに行っているようだ。*何かの記事でカソードフォローワーと記載があったので元記事を確認しようと調べ直してみると、元記事が見当たりません。間違っていたら訂正します。



回路構成は全く同じとされているEAR 868



通常出力トランスをカップリングするのであれば、トランスは電気的にはインピーダンスマッチングに機能するので、敢えて出力インピーダンスを下げる必要はない。にも拘らずカソードフォロワーを設けている。トランスの働き・効用を知っているが故に、弊害も知っていると言う事なのだろうか。レコードのイコライザーカーブのようにゲインの幅が大きく変動する時には、トランスの巻線比(1:1~1.2)を抑えたかったのではと予想する。ラインレベルのアンプ構成を見るとこちらでは、二段目の真空管から直接トランスに接続しているので、こちらのトランスは1:10程度の巻線比ではないだろうか。カソードフォロワーを設けなければ、ラインレベルと同じ出力トランスで済む筈で、わざわざ同じような目的に造り分ける周到さは、何らかの音質上のメリットを見出していると言う事なのだろう。


回路に関して前回、”敢えて鮮度感を抑えているのでは”と記したのだけれども、こんな記事があったのでご紹介したい。

http://www.audio-romanesque.com/ear899.html から抜粋
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但し、どういう分けか判りませんが、ECC83とECC85のヒーター電圧が規格より2-3割方低く
エミッションが足りません。
プリアンプの時も同様でした。

単にS/Nを稼ぐためにやっているのかどうか判りませんが
最低限ヒーターの規格通りの電圧を掛けて欲しいです。
このヒーターの電圧UPは電源トランスの関係上残念ながら出来ませんでした。
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この事を詳しく知れべているサイトがあったのでご参考までに
http://www.op316.com/tubes/datalib/heater.htm

エミッションは電流に依存するファクターであるため、電圧が低くても電流値を多めにすれば問題は無い。と云ってもヒーターの抵抗値が決まっているのでこの場合は変更しようがないのだけれども

真空管のヒーターの点火は、交流点火と直流点火にわけられる。直流点火は、非安定化電源による点火か安定化電源による点火にわけられる。安定化電源も、またふたつに分けられる。プリアンプの場合はS/Nの関係からヒーター電源は定電圧が採用される事が多い。EAR の場合は、(想定した)電流値で合わせているのではないだろうか。

EAR 912の試聴記と測定結果
http://www.stereophile.com/tubepreamps/1205ear/index.html
http://www.stereophile.com/content/ear-912-preamplifier-measurements

前回の試聴に当たっては、最初にCDから始め、その結果が非常に良い結果でその流れからそのままアナログの試聴に移った。回路構成から音を予見する事は、判断にバイアスが掛かる可能性があるので、出来るだけ予想をしないようにして試聴するようにしているが、否が応でも興味が湧く。

セッティング・経緯
2~3枚聞流して、選定したレコードを掛けてみた。勿論、悪かろう筈もない。しかし、レコードをかけかえながら何となく釈然としない。あれ? こんなんだった!?・・ もう一度CDを掛けて確かめてみる。素晴らしい。気を取り直して再度レコードを掛けてみた。CDと殆ど変わらない?否、CDの方が良いような微妙な感じ。何かがおかしいとセッティング他を見直すことにした。

最初に 入力インピーダンスを切り替えてみる。Audio Note IO は公称インピーダンス1Ωと言う事から、3Ω. 6Ω.12Ω.40Ω. ゲインセッティング 0, -6, 12dBをそれぞれ試してみる。この場合 -6dB がまとまりとすっきりして好感触であったため取合えずこれで固定した。インピーダンスは切り替えると感触が変わり3Ω. 6Ω.と迷ったのだけれども、取合えず6Ωとした。

レコードを掛けてみる。先程よりも随分良くなったようにも思うがどこかスイートスポットを外したような感じで、耳を近づけると小さなハム音がしている。今度はアースラインを見直すことにした。しかし、今までの経験からケーブルもシャーシアースと導電位にするシールドを設け新たに製作した。ターンテーブルとアンプのシグナルアースとシャーシアースをそれぞれ分けて取り直した。

今度は万全である。スピーカーから全くハム音は聴こえない。トランスは誘導の影響を受け易く設置には注意が必要となるのは、良く知られている。ノイズ源を持たないトランスそして真空管のアンプと云う事を考えるとこのS/Nは素晴らしい。

シャーシは曲げ鋼板で鳴きがあるので、インシュレーターも設置した。電源ケーブルもこの際換える事にした。適当にレコードを選んで掛けて確かめる。入力条件も再度確認した。

Cartridge 
標準としているカートリッジで最初は鳴らしながら、セッティングも詰めて色々模索してきた。
しかし、何とも音がソフトすぎる。エッジが際立つのも聴き疲れするので嫌な物であるが、音の輪郭が点描画のようにあいまいさがあり、何とももどかしい。

カートリッジを替えることにした。取り出したのは、shelter 7000。今まで、ボロンカンチレバーは分解能に優れるが、ハーモニーが出づらいと評価していたので、積極的に取り上げることはしてこなかった。その中にあってボロンカンチレバーのネガティブな面を良くコントロールしている良いカートリッジであるが、僅かに明晰というか硬直さを感じるところもあって準標準器としていた。

しかし、今回この評価を新ためる事に為りそうである。エッジ感もありながら、ハーモニーも本当に豊かに醸成される。懸念した硬直感も全く感じない。カートリッジの入力条件を設定できるようになってはいるが、その幅は思いの外狭く、新しいカートリッジに照準を合わせているように思う。 

Analog Records
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Jessye Norman Negro Spirituals 
A1 : I Couldn't Hear Nobody Pray3:10 A2 : My Lord, What A Morning3:50
A3 : Do Lawd, Oh Do Lawd1:51 A4 : There's A Man Going Round3:03
A5 : Ev'ry Time I Feel De Spirit1:55 A6 : There Is A Balm In Gilead3:14
A7 : Gospel Train1:11 A8 : Great Day2:03
B1 : Mary Had A Baby2:59 B2 : Live A Humble1:58
B3 : Walk Together Children2:04 B4 : Were You There4:43
B5 : Hush! Somebody's Callin' My Name2:23 B6 : Soon Ah Will Be Done 2:13
B7 : Give Me Jesus4:53



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このレコードは、個人的に思い出深い。取り上げた理由は、大概のシステムでは上手く鳴らないからである。
ソプラノ・ドラマティコの声質と圧倒的な声量は、マイクのクリップなのかアンプのそれなのかスピーカーが再生できないのか。掛ければたちどころに本質を剥き出しにする厳しいレコードであると同時に、音楽的にも豊かな情感と美しいメロディーが心静かな気持ちへと誘ってくれる。
歴史を考えれば、悲哀と諦観の中にあるのは、当然の事ながら、明日を信じる不思議な力強さを感じさせてくれる。連日の夜半の帰宅に消耗する心を就寝前の僅かな自由な時間、何度このレコードを掛けただろうか。
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今まで多くのアンプでこのレコードを掛けてきたけれども、声の変調がほとんどなくスムーズに聴く事ができた初めてのアンプであった。耳障りな音を出さないという事と録音の正確さは、相反する事柄なのかもしれないが音を”まるめた”ような消極的な問題解決ではなく、細かな音の変化を全て取り上げ全体を整えた”コンプレッサー”を介したような印象である。

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Sonny Criss Saturday Morning : Recorded on March 1, 1975.
Sonny Criss - alto saxophone
Barry Harris - piano
Leroy Vinnegar - bass
Lenny McBrowne - drums
1 "Angel Eyes" 
2 "Tin Tin Deo "
3 "Jeannie's Knees"
4 "Saturday Morning"
5 "My Heart Stood Still"
6 "Until the Real Thing Comes Along"
7 "Confusion"
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<http://www004.upp.so-net.ne.jp/fuetako/cd/criss.html>から抜粋
泣き節などと評されるソニークリスのアルトサックス。聴くとその音のよさ縦横な音色。朗々と歌いまくり、泣きまくる。ブロウも、フルトーン剛直一本槍ではなく、よりいっそう哀愁を演出する。フルトーンでブロウ、ブロウ、ブロウ! という状態から少し引いた、力の抜け具合がいいのである。しかも、抜け過ぎず、決めるところはきっちり決めてくれる。

世間では、ソニー・クリスの最高傑作のように評価されているアルバムだが、ほんとうにそうか。まず、録音だが、クリスのアルトの音がどうも細く録られているように思う。たしかに、やや力を抜き気味の演奏が多いのだが、フルトーンでブロウするところが、その直前と直後の2枚のミューズ盤などにくらべても、なーんか痩せた音に聴こえる。渋い演奏をしているような印象がある。バリー・ハリス・トリオだけの演奏も入っている。このバリー・ハリスが端正すぎて、意外とクリスと合っていないような気もする。そうだ、バリー・ハリスの渋さにひっぱられてソニー・クリスがこんな感じになったのではないだろうか。ベストトラックはB-1のアルバムタイトル曲でもあるマイナーブルース。これまた力の抜けた渋い演奏なのだが、マイナーの曲調とあいまって、すばらしい効果があがっている。これでもうし少し、クリスのアルトが太く、前にでるように録音されていたらなあ……。ラストはスタンダードで、これまためちゃめちゃ渋い演奏。こういうのがきっと大人のジャズ通にはうけるのだろうなあ。
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このレコードの一般的な評価として、アルトの音が細いとか痩せたとか印象が固定した評されているのがアルトの演奏の中でも屈指の厚みとスリルを感じさせてくれる。Barry Harris - piano Leroy Vinnegar - bass Lenny McBrowne - drums は世評以上に、タイムキープとバックサポートに徹しながら音は太く熱い。特にベースの厚みと切れはソニー・クリスの情感溢れる音色と対比をなし音楽に深みと広がりを加え端正というより、剛毅で刻まれる低弦のリズムが部屋を熱く揺るがす。

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Peter, Paul and Mary 
SIDE-A
 ・レモン・トゥリー ・500マイルを離れて ・悲惨な戦争 ・ハンマーを持ったら
 ・花はどこへ行ったの ・我が祖国 ・虹と共に消えた恋


SIDE-B
 ・パフ ・風に吹かれて ・くよくよするなよ ・時代は変わる ・朝の雨 ・ロック天国 ・悲しみのジェット プレイン




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1960年を代表するフォークソンググループ。小学校の頃、日常的にニュースで流れるベトナム戦争の映像。歴史的な背景やその数十年前に日本も戦争を遣っていた事など知る由もなく、戦闘機が大好きで兵器である恐ろしさも知らぬ間に、模型作りと雑誌を見て、日本の飛行機を空の彼方に夢想していた。高校になり、勉強と称して深夜放送を聴くようになった。そんな中で知った曲の数々。

それぞれの歌声が明瞭でありながら、三人が織り成すハーモニーと、コントロールされた美しいアーティキュレーションがどこまで再現できるかを聴いてみたい。
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オムニバスアルバムのため、音質はあまりよくないと思っていたのだけれども、針を落として曲が流れ始めると、荒れたところ針音などもほとんど気にならない。ボーカルは肉声そのもので張りとボディーがある。コーラスは、まさに三人の声がそれぞれ発声しながら、空間でハーモニーを織り成すので聞惚れてしまう。バックの演奏もヴォーカルの後で存在感を示しながら、音色や音量も自然で、昔聞いて心に刻まれているイメージのまま、しみじみと音楽を聴かせてくれる。当時聴いていた音は、ラジオやシスコンで音は較べるべくも無い。しかし、記憶の中の音は美化されているため、良い装置で聴くと「あれ?こんな音だったかな。」と落胆したり違和感を持つことが多いのに、再現されるイメージは心に刻まれているイメージは少しも損うことはなく、音そのものも、極めて上質であった。
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まとめ
アナログをきちんと再生するためには、CD以上にセッティングに留意したいが、一体型であるため
自由度も限られるので一層の工夫が求められるように思う。ただ繋ぐだけでは、能力を秘めた可能性の一部を聴かせてくれるに留まる。”このカートリッジはこんな音がする筈”という今までの経験値をも一度リセットする必要があるかもしれない。しかし、その努力には豊かな音楽の再現で報いてくれる。CD時代以降に開発されたカートリッジに感じていた要素・感触がネガティブなものからコレでなければと、アナログの可能性を感じさせてくれた。平明であろうと努めていたが無意識のうちに固定された自分自身に気付かされた。

しかし、何もかもを曝け出すような、剥き出しの表情を見せる事は無い。自由さは、細部までコントロールされ、言いたい事はきちんと話すが、余分な事を決して口にしない。アンダーステイトメントな印象は、やはり出自ゆえのイギリス製なのかも知れない。

ヨシノトレーディング殿取扱いのクリアオーディオのカートリッジはCD時代に入ってから評価を上げ、過去のアナログのイメージを引き摺らない事を開発目標としていると聞いている。ユーザーのともすれば保守的に為りがちな傾向からアナログの良さを過去に止めることなく今日的に捉える、
この姿勢はEAR自身も同じくしているように感じた次第であった。

次回はクリアオーディオのカートリッジで聴いてみたいものである。まだ知らない世界が待っているそんな期待がある。

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